オトナの事情。
ガタン、と厳かな音が低く響いて扉が開き、その奥から現れたルナは………多分、この世の何よりも美しい。
『どう…?』
でも、遠慮がちに俺に聞くルナに、正直に答えるとしたら、最高に似合わない、と言わなきゃいけない。
これは本当だ。
俺も不思議なんだけど、いつものメンズLのスウェットの方がよっぽど似合うんだ。
それが、俺の知っている、家でゴロゴロする怠け者には、一番似合うし、一番ルナらしい姿だから。
だから、そんな、いつもより着飾った、重たそうなドレスなんて、似合わない。
胸に輝くその高そうなネックレスも、お前、あんなに汚いリビングじゃあ、すぐに失くすぞ。
第一、ルナはモデルなんだから、ドレス姿なんて見慣れてるんだ。
なのに、どうして、涙が出るんだろう。
「…あーあ。なんだこれ。」
メイク直さなきゃいけないじゃないか。
「…綺麗すぎるよ、ルナ」
感動と、切なさと、感謝と、愛おしさと。
もうなんて言えば良いのか分からないこの気持ちで胸を押し潰されそうになりながら、俺は、やっと、それだけ言えた。
そこに一番あるべきはずの、希望だけが、俺にはなかった。