オトナの事情。
『ユキ君~おいで~!』
無邪気に手を振るルナが、いつも通りで、なのにそんなに綺麗で、いや、いつも綺麗なんだけど、何かが違って。
それが、誰かと永遠を誓うための格好をしているからなのは、明白で。
分かってるんだ、これは撮影だって。
だけどウェディングドレスを見ると無意識に、幸せ、というワードを連想してしまう、人間の先入観みたいなものが邪魔して。
もしかしたら、もしかしたらこれは現実なんじゃないか、なんていう俺のポジティブすぎるアホみたいな都合の良い考えが、ふっと浮かんでは、必死に沈めこむ。
近い将来、その隣にいるのは、俺じゃない、と言い聞かせて。
そしてまたその現実に心がえぐられて、やっぱり俺の目頭はジンとして。
ああ、くそ。
「向坂君、笑顔!」
そんな気持ちでいる時に、笑える奴がいるかよ。
俺の気持ちが、誰に分かるかよ。
なんて思いつつ、もう何度目だろう、また自分を虐める。
仕事を受けたのは自分だと。