オトナの事情。
『ユキ君?』
ルナの声に、テレビを消した。
『…準備、できました。』
振り返れば、お気に入りのコートにマフラーを巻いたルナが立っている。
俺はなんて声をかければ良いかも分からずに、黙ってその手を取った。
いつも通りに、玄関を出て、エレベーターを降りて。
エレベーターホールから既に、外に報道陣が大勢集まっているのがうかがえる。
あの表紙が発表されたからだろうな。
…ああ、ここまでか。
きっとルナも同じことを思ったんだろう。
どちらからともなく、抱き合った。
「…裏口から出て行くんじゃなくて、良いの?ヤバそうだよ、なんか。」
『うん…まあ、こんなのも多分、最後だから。スーパーモデルらしく堂々と出て行きますよ。』
「それもそうか…。」
いやに反響するお互いの声が、必死に殺しているはずの俺の感情を強く揺さぶる。
気を緩めれば、ルナを壊してしまいそうなくらいに、俺の中のルナへの愛が強くなってることに、今になって気付くなんて。
もう少し早く気付ければ、何か、出来たんだろうか。
…いや、嘘だ。
本当は、とっくに気付いてた。
気付かないふりをしていただけだ。