オトナの事情。








…連れ去るなら、今だ。










このままこの手を引っ張って、どこまでも走って行って、誰にも見つからないところで、二人だけで暮らせばいい。



苦しみも、幸せも、全部2人だけで分かち合えばいい。








何もかも捨てて、俺について来いよ。






そう、一言、言えば良い。




…言うなら、今が、最後なんだ。








でも。




『…もしもし。はい、ありがとう。今、行きます。』






車、着いたって。





そう笑うルナが、俺の手を取るほど愚かじゃないのは、俺が一番分かっているから。







「…ん。」







やっぱり、黙って抱きしめることしかできないんだ。


< 154 / 184 >

この作品をシェア

pagetop