オトナの事情。
恋の噂は聞かないけれど、いつか誰かと幸せになってほしい。
だってあんなに素敵な人、世界中どこを探したってきっといないから。
…でもどうか、私のことは忘れないでね。
楽しかったあの日々は、ちゃんと思い出にしてほしい。
私にとって、一番大切なこの記憶を、貴方のどこかにも残しておいてほしい。
ほんの少しで良い。
薄っすらとでいい。
私の顔が思い出せなくなっても、笑いあったことだけは、覚えていて。
それだけで、私は、前に進めるから。
…なんて。
本当は、嘘なの。
白無垢に身を包んで、女の子なら誰もが憧れるはずの結婚式を目前に控えて、なのに私が思い浮かべるのは、やっぱり貴方の泣きそうに笑った顔なの。
あの日、好きだ、と言ってくれようとした。
私がそれを、言わせなかった。
叶わぬ恋に、溺れたくなかった。
だけどとっくに、遅かった。