オトナの事情。
「…お前、ほんとバカ。」
そんな憎まれ口を叩きながらもそっと私を抱きしめる腕に、冷たい言葉しか吐かないのが彼の優しさだったと思い出す。
「…お前まで、狂った愛に、巻き込まれてんなよ。」
そう。
長く世話を焼いてもらう内に、見えなくなってしまっていたけど、あの人の愛は、いつもおかしかった。
私には現実が辛すぎて、そのおかしな非日常に逃げていた。
『…でも、もう大丈夫。ちゃんと、私のことだけ見てくれる人、見つけたから。』
見上げればそこには、愛しい人。
『その人が、私の目、覚ましてくれたみたい。』
私のことを、正しく愛してくれる人。
『…ユキ君、来てくれて、ありがとう。助けてくれて、ありがとう。』
こんな私を、必要としてくれる人。
「…よかった。ルナにはもう俺なんていらなくなったんじゃないかって、本当はずっと心配だったんだよ。」
そう笑った、少しシワの増えたその顔は、2人の離れている間に流れた年月を表していたけれど、大切なものは何も変わっていなかった。