オトナの事情。
懐かしい気持ちのまま、その首に腕を回した。
久しぶりに触れた唇は、最高に愛しくて。
「…好きだよ、ルナ。」
やっと言えた。
そう言ってはにかむ笑顔が、大好きだと思った。
「白無垢姿の花嫁に、こんなこと言うのも変だけど…」
時の流れが、あの頃と同じ速度に戻って、彼がポケットから取り出した小さな箱に入っているものが何かなんて、嫌でも分かる。
「…ここに来ること、すごく迷った。
たとえ事件の証拠が掴めても、あの人が逮捕されても、ルナがあの人や天王寺家に恩を感じてることは気付いてたし…ある意味、家族のような人だろうから、真実を明かす事が本当に最善の道なのか、自信、なくて。」
ユキ君の言う通り、本当は今も、複雑な気持ちでいる。
あの人と過ごした時間は長過ぎて、恨みや憎しみよりも、愛が勝ってしまいそうになる。
でも、それは、愛なんかじゃない。
ただ…少し、恩があるだけ。
そんなものであの人のしたことが許されるわけがないし、許してはいけないの。
そう、ユキ君が、教えてくれた。
「…でも、俺、やっぱり、ルナが好きなんだ。頭では、何が正しいのかなんて難しく考えてみても、結局、ルナのことが好きだなって…それだけで。」
1回しか、言わないからね?
そう言って恥ずかしさに頬を染めるのが、ユキ君らしいよね。
「…俺と、結婚してください。」