オトナの事情。
『…私、お片付けできないよ?』
「うん、知ってる。」
『割と金使い荒いし。』
「うん。」
『…まだ、ユウジ君のファンだよ?』
「…ははっ、なんだよ。そんなん知ってるってば。」
ユキ君は、ルナのことなんて、なんでも知ってるよ、と笑う。
…私、こんなに幸せで良いのかな。
だって本当なら、今日までで全ての自由を奪われる覚悟だったのに。
ヒーローは忘れた頃にやって来るって、本当だったんだね。
『…私で良ければ、ユキ君の、お嫁さんにしてください。』
幸せすぎて、また、涙がこぼれた。
好きな人に、好きだと言われることが、こんなにも幸せだとは思わなかった。
「もちろん、喜んで。…覚悟してね。びっくりするくらい、幸せにするから。」
何言ってんの。
もう、私、こんなに幸せなのに。
でも、ユキ君はきっと、本当に、もっともっと幸せにしてくれるんでしょ?
たくさんたくさん遠回りして、長い時間がかかったけど、今こうして貴方の隣にいられるなら…私の人生、捨てたもんじゃない。
その場にいた報道陣から自然に湧いた拍手で、一連の事件は幕を閉じた。
それは、日本芸能史上、最大のスキャンダル。
古くからの名門である天王寺家と西園寺家の愛憎劇。
その末娘が、4年前電撃引退したスーパーモデル、狭間ルナであったこと、そしてその幽閉されていた過去。
人気グループBLUEの向坂 宏之と何度も報道が出ながら、突然、違う人との婚約発表をした本当の理由。
そんな私を取り戻すため、彼がありとあらゆる手段を使い、自分の芸能人生の全てをかけてまで掴んだ、西園寺家長女殺害事件の決定的証拠。
ワイドショーは連日、私達の今までを、丁寧に解説した。
何もかも明らかになって、私たちを取り巻く環境は大きく変わった。
それでも。
「…ルナ」
ユキ君が私の名前を、嬉しそうに呼ぶたびに、いつまでも変わらない、愛を感じる。
その響きに込められた温かさに、1番大切なものを、もう二度と見失わずにいられる。
切なさに幾度も流した涙の跡を埋めるように、ギュッとその手を握りしめて、これからは、歩いて行こう。
どこまでも、2人で。