オトナの事情。
都内、高級タワーマンションの最上階。
1フロアで一軒を占めるこの贅沢な部屋に、1人で帰る夜にもだいぶ慣れた。
数ヶ月前、あいつと暮らしていた頃と同じ部屋とは思えないほど綺麗になっているが、俺にとってはもう、コッチが“日常”。
最初こそ、大きすぎる喪失感に、毎夜枕を涙で濡らしていた。
でもありがたいことに、日に日に忙しくなって行く毎日をこなすのに精一杯で、あいつのことをこうやって思い出すことも段々と少なくなって行く。
かといって、俺があいつのことを忘れてしまうことは、きっとないんだろう。
だって、俺の生活には、あいつがいすぎたんだ。
この部屋にいる限り、あちこちにあいつが残っているから。ふとした瞬間、どうしても脳裏にあの屈託の無い笑顔がよぎる。
…それで良い。
俺の本気の初恋には、いつまでも俺を苦しめてもらおうじゃないか。
お望み通り、いつだって、君を思って歌うよ。
君の大好きな、失恋の曲を。