彼と私のかくれんぼ
始まりは七年前
「お前はホントに、隠れるのが好きだな」

ハアッと大きなため息をついて私を見つめた彼の瞳の奥は、七年前と同じ色をしていた。





七年前の、十一月。

高校二年生だった私、白石紗英(しらいし さえ)は、泣きそうな顔で親友の住吉菜穂子(すみよし なおこ)ちゃんの顔を見上げていた。

「紗英。あきらめなさい」

「嫌だ。菜穂子ちゃん、やっぱり私、当日休んでもいいかなあ」

「文化祭だってれっきとした学校行事だよ。それに紗英さあ、皆勤賞狙ってたんじゃなかったっけ?」

「うっ……」

「それに、紗英のお父さんが、仮病とかで学校休むの許すとか考えられないんだけど」

正義感の強い、嘘がこの世で一番嫌いな父の顔が、頭に浮かぶ。

熱もないのに休みたい、なんて私が口にしたら、きっと顔を真っ赤にして怒り出すのは目に見えている。

「じゃ、じゃあっ。そのカードを最初から受け取らないっていうのは?」

「無理だね。確か受け渡しのサインも入れるって実行委員の子が言ってたもん」

「……ああっ! もう嫌だ。なんで今年に限ってそんなことするのっ」

机に突っ伏した私の横で、笑いながら頬杖をつく菜穂子ちゃん。

そんな私たちの元へ、ツカツカと足音が近づいてきた。

「あれ? 白石どうしたの?」

「あー、文化祭のゲームに参加したくないんだって」

簡潔な菜穂子ちゃんの説明に、ユーコさんとリエさんは納得したようにうなずいた。

「なるほど。白石、人見知りだもんね。それもかなり重症の」

ケラケラと笑いながらユーコさんは髪の毛をかきあげる。

何の変哲もないふたつくくりのストレートの黒髪に、赤い縁のメガネ姿。

人見知りでそんな地味な私と、学校でも有名な派手で目立つグループにいるユーコさんとリエさん。

珍しい組み合わせの私たちだけど、ひょんなことから仲良くさせてもらっている。

「でもさ、白石。ここはクラスメイトとして辻井の為に協力してあげようよ」

「もう、ユーコさんってば熱い女っ」

「言って言ってー。住吉もっと褒めてー」

ユーコさんがニコニコする姿を横目で見ながら、私は大きなため息をついた。

なぜ私がこんな思いをしているのか。話は一か月前にさかのぼる。

うちの高校では、文化祭のメインイベントを校内公募しているのだが、今年の目玉として選ばれたのが、クラスメイトである辻井くんの、学校全体を巻き込んだ大型イベントだったのだ。
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