彼と私のかくれんぼ
「奥さんも言ってたぞ、『紗英をもらってくれるのは、ショージくんしかいないわよね』って」
「も、もらうって……!」
久保田先輩の言葉に思わず顔を赤くする。
「お前ら遠距離長いだろ? ショージもそろそろ考えてんだと思うけどなあ。お嬢との結婚」
「先輩、それ絶対お父さんに言わないで下さいよ。変に勘ぐって東京行けなくなったら困るんだから」
「わかってるよ」
「トメさんも。絶対ですよ!」
私が念押しをすると、ふたりはニヤッと笑って一応は頷いてくれた。
その日の晩、夕食を終えお風呂も済ませた私は、自分の部屋で東京行きの荷物の再確認をしていた。
新幹線のチケット、お財布にICカード。
この間のお休みにユーコさんと菜穂子ちゃんと三人で選んだ、辻井くんへのお祝いのプレゼント。
そして、片想いが実って今、辻井くんとお付き合いをしているリエさんへのお土産も忘れずに。
リエさんは辻井くんを追いかけて、地元の大学の看護科を卒業後、東京の病院で看護師をしている。
ふたりが付き合いだしたのは、一年ほど前のこと。
画家として少しずつ仕事が増えてきた辻井くんが、だいぶ自分に自信がついたとリエさんに告白したのだ。
その瞬間をずっと心待ちにしていたリエさんは、『そのとき大号泣してさぁ』と、帰省したときの報告会でも少し涙を浮かべていたっけ。
そのリエさんの涙に、集まっていた私、菜穂子ちゃん、ユーコさんも一緒になってうれし泣きをした。
庄司くんに会えるのももちろん楽しみだけど、辻井くんやリエさんに会えるのもすごく楽しみ。
ワクワクしながら荷物の確認をしていると、机の上に置いてあるスマートフォンが震え出した。
画面を見ると、そこに表示されているのは庄司くんの名前。
急いで手に取り、スマートフォンを耳へと傾ける。