彼と私のかくれんぼ
「もしもし」
『紗英。今大丈夫か?』
「うん、大丈夫だよ」
艶のある、透き通った声が、電話を通じてダイレクトに耳に通ってくる。
『今何してた?』
「明日の荷物、まとめてたの」
『なるべく少なめに持って来いよ。ある程度のものならうちに揃ってるし』
明日、あさってと私は庄司くんの家に泊まらせてもらうことになっている。
彼氏の家に泊まるのは初めてのことなので、少し緊張しているけど、私はそれを知られないように明るい声を出す。
「うん。お財布とスマホは忘れないようにする」
『ああ、それさえあればあとは何とかなるさ』
それから少しだけ、他愛のない話をした。
現在第二子を妊娠中で東京行きを断念したユーコさんが、『辻井の個展をこっちでもやってもらって私も見る!』と息巻いていることや、久保田先輩の腕が上がって、トメさん以下、おじさん職人軍団からすごく可愛がられている話。
恋人がいるなんて一言も言ってなかった兄が、結婚しようと思っていると発言したので、白石家は過去最大のお祝いモードになっていること。
庄司くんからは、今大きなプロジェクトに関わっていて、忙しいけど充実してるっていう話を聞いたりした。
『明日もプロジェクトの打ち合わせがあるから、もしかすると紗英との待ち合わせ時間に遅れるかも知れないんだ』
「大丈夫だよ、東京駅に七時でいいんだよね」
『遅れるようなら連絡入れるから、近くのカフェとかに入っててよ』
「うん。そうする」
『じゃあ、紗英。明日な。気をつけてくるんだぞ』