彼と私のかくれんぼ
「ショージくんのところに初めてのお泊りだもんね。紗英もドキドキするよねぇ」
「もう、菜穂子ちゃん!」
「アハ。紗英、顔真っ赤」
クスクスと笑う菜穂子ちゃんに向けて抗議の声を上げるけど、菜穂子ちゃんはまったく動じない。
反対に、私の顔はどんどん赤くなってくる。
確かにこの五年、私が庄司くんのところに行ったことは一度もなかった。
父が許してくれないから、というよりも私自身がひとりで東京に行くのが不安だったからというのが大きな要因かもしれない。
だけど、代わりに庄司くんがこっちに帰って来てくれていたし、母に口裏を合わせてもらって、一泊旅行には何度か行ったことはあったから、初めてのお泊りっていうのとは違うと思うんだけどなあ。
そう心の中で思うけど、それを口に出すのは少しだけ恥ずかしい。
でも、私ばかりがからかわれてばっかりは悔しい。
そう思って、私が唯一、菜穂子ちゃんをからかうことができる話に持っていくことにした。
「でも菜穂子ちゃんは、春田さんとデートが出来なくて残念ね」
「だけど月曜日に銀行帰ったら会えるもん。しかもその日はご飯一緒に行く約束もしてるし」
だけどあっさりとかわされて、私は渋い顔を浮かべる。
「紗英と違って、私はこれくらいのことでは照れないの。ま、紗英のそういうところが可愛いところだと思うけどね」
菜穂子ちゃんは、私と同じ大学を出て、地元の大手銀行へと就職した。
就職先で教育係だった春田さんと付き合いだして一年くらいたっているんじゃないのかな。
私も菜穂子ちゃんに紹介されて、一緒にお食事したことがあるけれど、人見知りの私でもすごく話しかけやすい雰囲気をした、とても素敵な男性だ。
「彼も言ってたよ。紗英みたいな子と離れ離れで、ショージくんはヤキモキしてるだろうねって」
「春田さんがそんなことを?」