彼と私のかくれんぼ

菜穂子ちゃんは人混みも得意ではない私が、ひとりで庄司くんを待つことに不安を感じているみたい。

少しだけ悩んだ表情を見せていたけれど、何かを思いついたのか、急に目を輝かせた。

「いいこと思いついた。紗英、ショージくんの会社まで行っちゃえ」

「え? 会社に?」

「そう。駅の人混みの中で待つよりは、会社の近くのカフェとかに入って待ってる方が紗英にはハードル低い気がするし」

菜穂子ちゃんの言葉に、心が揺れる。

確かに、東京駅はとても広くて、ひとりで庄司くんを待つのは心細い。

でも、会社の近くのカフェに入ってメッセージを送っていれば、きっと庄司くんはお店まで迎えに来てくれるはず。

「確かに菜穂子ちゃんの言う通りかも。そうしよっかな……」

「そうしなよ。そっちのほうが私も安心」

その言葉にうなずいて、私は菜穂子ちゃんと別れて庄司くんが勤める会社へ向かう地下鉄へと乗り込んだ。






「えっと、松嶋グループの本社ビルは……っと」

駅から地下へと上がった私は、さっそくスマートフォンを片手に庄司くんの勤務先である松嶋グループを検索していた。

日本でも有数の大企業である松嶋グループのビルなだけあって、しっかりと地図に表記されていたので、ホッと胸をなでおろす。

ちゃんと本社ビルの前までたどり着いたら、その後カフェを探して、そこで庄司くんへメッセージを送ろう。

これからの段取りもしっかり考えて、大きな道をまっすぐ進んでいくと、目の前にたくさんの高層ビルが見えてきた。

「うわ……」

驚きの声が思わず漏れてしまう。

首が痛くなるくらいの高さのビルが、いくつもそびえ立つ風景は、地元にいたら中々見ることに出来ない景色だ。

庄司くんは、いつもこんな風景をながめながら仕事をしているんだ。
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