彼と私のかくれんぼ

来てしまったものの、勇気の出ない私は会場の前で立ちすくんでしまっていた。

そして、そんな私のバッグの中で、しきりにスマートフォンが震えている。

見なくても予想はつく。多分庄司くんから連絡が入っているのだろう。

だけど私は、今彼と話す勇気が出ない。

前にも後ろにも歩き出せずに突っ立っていると、前から手を振って、リエさんが歩いてきた。

「あれ、白石じゃない。どうしたの、こんなところで?」

「えっと……。明日の下見?」

本当のことは言えずにごまかすと、いつもみたいにケラケラとリエさんが笑った。

「えー。明日ショージが連れてきてくれるんだから、下見なんか白石に必要ないでしょ。面白いなあ、白石は」

肩をバンバン叩かれて、私が苦笑いを浮かべていると、会場から辻井くんが顔を出した。

「リエ、仕事お疲れ。白石さんも来てたの?」

「辻井くん、久しぶり」

「もう準備大丈夫なの?」

「うん。仕事終わりにわざわざ来てもらったのにごめんね」

「いいよ、全然」

辻井くんが来た瞬間、リエさんの乙女モードにスイッチが入って、一段と可愛さが増していく。

ふたりを包む空気がすごく澄んでいて、それがうらやましく感じて少し落ち込みそうになってしまう。

「ね、白石。ショージはどうしたの?」

「あ。まだ仕事中みたいで……」

「だったらショージを待ってる間、私たちとお茶しようよ。あ、ご飯でもいいけどさ」
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