彼と私のかくれんぼ

庄司くんの問いに、私は口を閉ざす。

そんな、理由なんて言えないよ……。

ひたすら俯いて黙っていると、悪魔のような言葉が上から降ってきた。

「さーえ。言えないならここでキスするぞ」

「え!? キ、キスってここで?」

「うん」

庄司くんは平然と言ってのけるけど、ここはあの東京タワーのお膝元。

周りにはライトアップされた東京タワーを観るために来ているであろう観光客がスタスタと歩いている。

「そんな恥ずかしいこと出来るわけないじゃない。こんなに人だっているのに」

「じゃあ、何があったか言えよ」

「それは……」

「はい、キスまであと五秒、よーん、さーん……」

「わ、わかった。言う、言います」

観念して叫んだ私を見て、庄司くんはニヤリと笑った。

心を落ち着かせるように一旦息を吐き、庄司くんを真っ直ぐに見つめて、私はポツリ、ポツリとさっきの出来事を話し出す。

「私ね、菜穂子ちゃんと別れた後、東京駅じゃなくて庄司くんの会社のビルに向かったの」

「え? ビルまで来てたのか?」

「うん。そしたらちょうど、会社に戻ってきている庄司くんの姿を見かけてね」

「だったら声を掛けてくれればよかったのに」

「そう思ったんだけど……」

どうしよう、どこまで言ったらいいんだろう。
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