彼と私のかくれんぼ
「紗英はさ、ちゃーんと俺のこと『庄司くん』って呼んでくれるんだよね。それが紗英だけだから、すごく特別に思えてさ。でも、大学入ったときに同じように『庄司くん』って呼ばれて、なんて言ったらいいんだろ。とにかく、なんでか紗英だけにそう呼ばれたいって思ったんだよ」
「……やっぱりよくわかんないよ。だって、みんな庄司くんって呼んでるじゃない」
さっきも辻井くんに同じようなことを言われたけど、やっぱりよくわからない。
「それに、さっきの子たち、庄司くんとすごく仲良さそうだったじゃない」
モヤモヤした気持ちのままだったから、思わず拗ねたことを言ってしまう。
直後にこんな子どもみたいなこと言ったらいけなかったなと思って思わず謝ると、庄司くんが小首を傾げた。
「なんで謝るの?」
「だって、庄司くん、仕事もして疲れてるのに私のこと探してくれて。それなのに子どもみたいなこと言っちゃってごめんなさい」
「いや、むしろ俺は嬉しいよ。だってそれってさ、ヤキモチだろ?」
心底嬉しそうにニカッと笑う庄司くん。
私は恥ずかしくなって、急激に体温が上がるのを感じる。
「嬉しいなあ。紗英にヤキモチ妬いてもらえるなんて。言っとくけど、本当に何もないからな?」
「でも、あのふたりキレイだったし……」
「俺には世界で一番紗英が可愛く見えるし、俺の中で一番キレイだと思うのも紗英だ」
「なっ……!」
恥ずかし過ぎて声にならない。顔を真っ赤にして俯く私の頭の上に、庄司くんの手がポンと置かれた。
「とにかく、俺は紗英のことしか見てないし。心配することは何ひとつないから。信じてよ、紗英」
コクリ、と小さくうなずくと、庄司くんがホッとしたように小さく息を吐いた。
「じゃ、そろそろ行こうか」
「行くってどこに?」
「飯だよ。紗英も気に入りそうなとっておきの店、予約してるから」
そう言って、庄司くんは私の右手を握って歩き出した。
「紗英が逃げないように」
そう言って笑いながら。