彼と私のかくれんぼ
「嬉しい。友樹くんから聞いていた通り、本当に可愛らしいお嬢さんだこと」
そうやってニコニコと微笑む女将さん。
ちょっとふくよかで、彼女が笑うと店内がパアッと明るくなったように感じる。
「あなたー。友樹くんが紗英ちゃん連れて来たわよ」
そうやって奥さまが厨房に声を掛けると、旦那さんである大将が顔を出してくれた。
優しい笑顔で頭を下げてくれるから、私もしっかりとお辞儀をする。
「紗英ちゃん。せっかく東京に来たのにうちの店でよかったのかい?」
「もちろんです。私、庄司くんからおふたりの話を聞いてて、ずっと会いたいって思ってたんです」
「そっか、そっか。じゃあ、友樹のあんな話やこんな話をしないとだな」
「……大将、何言ってんですか」
「そうよねぇ。紗英ちゃんには秘密なんてひとつもないはずだから、きっと聞いたところで驚かないわよね、紗英ちゃん?」
「ちょっと。女将さんまで何言ってんですか。紗英、何もないからな!」
「慌ててるのを見ると怪しいなあ」
ふたりに乗っかって私も意地悪を言うと、庄司くんの頬が珍しく膨らんでいった。
「……もういい」
子どものようにふてくされて、テーブルに頬杖をつく庄司くんの姿は、中々のレアものだと思う。
写真に収めたいと思ったけど、きっとここでスマートフォンを取り出したりなんかしたら、優しい庄司くんもさすがに怒るよね。
そう思った私は、静かに庄司くんの隣の椅子に腰を下ろす。
「まあ、友樹くんってば拗ねちゃって」
「いいなあ、その顔。ちょっと残しておこう」