彼と私のかくれんぼ
「ごめん。そこはどうしても」
庄司くんと秘密を共有している兄に少しだけ嫉妬心が湧いてくる。
「だったら私も、お兄ちゃんのお嫁さんと仲良くなって、秘密の共有してやる」
「うわ。なんだか手ごわそうだな、その同盟」
「今度のお正月、挨拶に来るって聞いてるんだ。今からとっても楽しみなの」
私は突然の兄の結婚宣言の後、兄からいくつかお嫁さんになる人の情報を聞き出していた。
写真は恥ずかしいからとまだ見せてもらってないけれど、とても好奇心が旺盛で、頑張り屋さんの人だということ。
建築士の夢を叶えるために憧れの人がいる建築事務所に就職して、修業を積み重ねていたこと。
そんな彼女の夢の為、兄は何年も前にプロポーズをしていて、今年彼女から返事をもらったのだという。
そのことを庄司くんに話すうちに、私はふと、あることに気がついた。
「どうした? 紗英」
おしゃべりが止まった私を、不思議そうに見つめる庄司くん。
「……ごめん。なんかね、お兄ちゃんたちの関係と、私たちの関係ってなんだか似てるなって思って。私と庄司くんも遠距離だけど、お兄ちゃんも遠距離恋愛だったみたいだから」
その言葉に、庄司くんは何も答えない。ただ、何か困ったことがあると目を逸らしてしまう、いつものクセを発見した私は、ひとつの仮説にたどり着いた。
「もしかして、遠距離恋愛になることを、お兄ちゃんに相談してた?」
「……紗英はするどいな」
しばらくの沈黙の後、ごまかせないと感じた庄司くんが、少しだけ悲しそうに笑った。
「大学を決めたときは、俺の家のこともあったし、紗英も後押ししてくれたから、離れるのは寂しいけど、上京することに躊躇はなかったんだ。でも就職ってなったら、数年って決まったもんでもないだろ? 紗英は家の手伝いしたいってずっと言ってたし、俺も地元帰って就職しようかなって思ってたんだ。でもインターンで松嶋グループに行ったとき、めちゃくちゃ魅力を感じてさ。だけど、紗英とずっと離れていたくないっていう気持ちも大きくて」
そのときの庄司くんは、本当に悩んでいたんだろう。
今、過去の話をしているだけなのに、とても辛い表情をしている。