彼と私のかくれんぼ
これからも続くふたり


「珍しいね、紗英が遅れるなんて」

庄司くんの家に初めてお泊りをした翌朝、辻井くんの個展の会場で開口一番、菜穂子ちゃんに笑われる。

本当なら、会場近くの駅で菜穂子ちゃんと待ち合わせて、一緒に行くはずだった私と庄司くん。

でも、寝坊をしてしまい、待たせてしまうのも申し訳ないので、先に菜穂子ちゃんには会場へと行ってもらっていたのだった。

客足もまばらな朝、他のお客様のご迷惑にならないように、あまり声を上げずに菜穂子ちゃんと会話を続ける。

「ごめんね……」

「いや、紗英のせいじゃないのはわかってるけどね」

なぜだか菜穂子ちゃんは笑いを堪えるような表情で、横で髪の毛をひとまとめにしている私のシュシュに手を伸ばす。

「今日は髪の毛、下ろしておいたほうがいいかもよ」

「え?」

「首のとこ、ついてるよ。キスマーク」

「ふえっ!?」

私の口から変な声が出るのと、菜穂子ちゃんがシュシュを外してくれるのは同時だった。

一緒に来た庄司くんの方を勢いよく振り返ると、素知らぬ顔で絵を眺めている。

「久しぶりだったから、ショージくんも止められなかったんでしょ」

クスクスと笑う菜穂子ちゃんに対して、もう何も言えなくなってしまった私は、ただただ顔を真っ赤にして立ち尽くすだけ。

昨日の庄司くんの久々に感じた体温を思い出して、思わず顔を手で覆うと、菜穂子ちゃんが私の左手をつかんだ。

「ちょっと。紗英、この指輪どうしたの? リエさん、リエさんっ!」

「なあに~?」

菜穂子ちゃんの呼び出しに、きょとんとした顔をしたリエさんが近寄ってくる。
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