彼と私のかくれんぼ

ニヤリと笑う菜穂子ちゃんとは対照的に、私の顔から血の気が引いていく。

さっき、菜穂子ちゃんから指摘されて隠したキスマーク。

だけど庄司くんは、そのキスマークが見えるようにさっき私の髪の毛をすくいあげたんだ。

「どうしてそんなことを?」

「んー。俺の大事な紗英を傷つけたから。ちょっとした仕返し?」

「傷つけたって……。もしかしてリエさん、昨日のこと庄司くんに言ったの?」

「ううん。ショージには言うなって言われたから言ってないよ。ヒロには言ったけど」

「僕は、誰にも言うなって言われてないから。こんな大事なことは本人に知らせないとね」

リエさんと辻井くんが、ケロッとした顔で真相を私に告げた。

今まで微笑んでいた庄司くんの顔が、真剣な顔に戻る。

「紗英が優しい子だっていうのは俺も知ってるし、そういう紗英のことが好きだけど。でもな、やっぱりこういうことはちゃんと言ってほしい。俺のいないところで紗英が傷つくのは辛いから」

「でも庄司くんは大丈夫なの? ずっと会社であの人たちと仕事していくのに、やりづらくならない?」

庄司くんの言葉は嬉しいけど、やっぱり私は心配だ。

このことがきっかけで庄司くんが大変な目に遭ったりしないだろうか。

心配する私をよそに、庄司くんはハハハッ、と笑った。

「実を言うとさ、はっきり告白されたわけじゃないけど、好意を持ってるって感じで接してこられてて、ちょっと迷惑してたところもあったんだ。ちゃんと言われたら断られるんだけどさ。だから今回、こんな形だったけど紗英を紹介して牽制できて少しホッとしてる」

「……だったらいいんだけど」

庄司くんが納得してるんだったら、私から言うことは何もない。

私も納得してうなずくと、庄司くんがホッとしたように息を吐いた。

「あーあ。ホントにショージくんに紗英を持っていかれちゃった」
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