彼と私のかくれんぼ
「もちろん」
顔を見合わせて微笑み合い、ふたりで電車の駅に向かって歩き出す。
「そうだ、紗英。結婚の挨拶さ、正月にお兄さんと合わせて行く予定にしてるから。ご両親に伝えておいてよ」
「え? お兄ちゃんと一緒にするの?」
「一応、お兄さんからの提案で、一緒の方がお父さんの反撃が少なくすむんじゃないかって」
「……なるほど。わかりました。言っておくね」
兄と庄司くんが結構綿密に連絡を取って計画しているんだなと思うと、なんだか少し仲間外れになった気持ちになってしまう。
「拗ねてる場合じゃないぞ~。紗英のご両親のオッケー出たら、次の日にでもうちに来てもらうからな」
「えっ?」
「……何驚いてるんだよ。俺の両親にだって会ってもらわないと困るよ」
「そ、そうだよね。そうなんだけど」
庄司くんの言うことはもっともだけど、心の準備ができていなかった私はひそかに焦り始める。
「大丈夫かな。庄司くんのご両親、認めてくれるかな?」
「挨拶に行くの、一か月以上も先だから今から心配するなよ。大丈夫。紗英は絶対気に入ってもらえる」
「ホントに?」
「ホント、ホント。だからな、紗英」
一旦言葉を区切ると、庄司くんはニヤリと笑い、右の口元を上げ、私にこう告げたのだった。
「頼むから、もうかくれんぼは止めてくれよ」
【Fin】