抱き締めたら止まらない~上司の溺愛につきご注意下さい~
あー、もう、会わずに帰れると内心ホッとしていたのに。

それでもまだどうにか切り抜けられる。

「お疲れ様です。早乙女さん」
「お疲れ様。あれ、今日の約束忘れてないよね?」

「勿論です。でも、どうしても外せない用事がありまして、帰るところなんです」

「…なんか、嘘っぽい」
「…」

ズバリ指摘されて、笑顔がひきつる。

あぁ、どうしようかな。困ったな。

次の言葉を探していると。

「渡辺」

突然呼ばれて振り返る。光も共に、同じ方向に視線を向ける。

そこには藍原が立っていた。

「どうしました部長?」

そう言いながら、藍原に近づく。

「書類に不備があったから、今から直せ」
「…え」

「今日中にしないといけないんですか?」

光の言葉に、藍原は言う。

「当たり前だ。ほら、来い」
「え、あ、すみません、早乙女さん。そう言うことらしいので、また後日という事で。部長、引っ張らないで下さい。痛いです」

呆気にとられる光をよそに、私は社内に引き戻された。

エレベーターの中、ようやく藍原から解放された。
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