抱き締めたら止まらない~上司の溺愛につきご注意下さい~
「藍原部長」
「…なんだ?」

「今日の書類は、どれも不備が無いことは確認済みなんですが」

「そうだな」

…え。

藍原の答えに、ポカンとする。

「じゃあ、何故あんな嘘を」
「え?あー…お前が困った顔してたから」

…私を助けるため?

「…部長」
「まあ、嘘だったとバレると、後々マズイダロウカラ?しっかり仕事はしてもらうぞ」

表情ひとつ変えない藍原に苦笑しつつ。

「助けていただいたお礼に、どんとこいです」
「その言葉、忘れるなよ」

…その鋭い眼光怖いです。

私は、そう言ったことに、後悔しても、後の祭り。

…。

結局、9時くらいまで、仕事は続いた。

オフィス内は、私たちの二人だけになった。

「よし、帰るか」
「…終わったー!」

椅子に座ったまま、大きく背伸びする。

と。

藍原が私の頭をポンポンした。

ドキリとして、上を見上げる。

「遅くまで悪かったな」
「いいえ。いつも一人で沢山仕事をこなしてる部長を尊敬します」

本当に。藍原は、ほとんどを一人で終わらせてしまう。私達サポートにも、あまり仕事は頼まない人だ。

「一人でできたんだが、どうせなら、誰もいなくなった方が、一緒に帰れるだろ?」

「…ぁ」

そうか、それで、こんなに遅くまで、私を付き合わせたのか。

「もう遅いから、何か食べて帰ろう。渡辺の好きなもので」

「…いいんですか?」
「嫌なのか?」

「いいえ!行きましょう。美味しい料理屋さん、知ってます」

私の張り切りように、藍原は優しく微笑んだ。
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