抱き締めたら止まらない~上司の溺愛につきご注意下さい~
謝ったものの、やっぱり藍原のマンションに帰ることを躊躇った。

よくよく考えてみたら、なんて大胆な行動をしたんだろうと、今更ながら思う。

「…意外と頑固だな」

小さな部屋で向かい合う藍原と私。

「…藍原部長も引き下がりませんね。そろそろ諦めませんか?」

私はこのアパートに残るつもりで、立ち上がろうとはしない。

「どうしたら俺のマンションに帰る?」
「私の家はここですし」

「…また、空き巣に入られたらどうする?」
「怖いですけど、何とか対処します。それに、早めにセキュリティ万全のところに引っ越します、」

「先立つものはあるのか?」

…実はない。

少しずつ貯蓄はしているが、働き初めてまだ半年、引っ越し費用には、まだまだ足りないだろう。

だんまりを決め込む私を見て、藍原はため息をついた。

「ここを引き払って、俺のところに来れば、引っ越し費用は直ぐに貯まると思うが?」

「…そこを言われると」

「今は、俺の気持ちは無視してくれて構わない。とにかく、渡辺の安全を確保するのが第一だと思う」

「…」

しばらく黙りこんで、考えて。

…。

私は正座をした。

「渡辺?」
「藍原部長」

「なんだ、そんなにかしこまって」
「しばらくの間、宜しくお願いします」

…私の言葉に、藍原は肩を撫で下ろした。
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