抱き締めたら止まらない~上司の溺愛につきご注意下さい~
驚いて横を見れば、藍原がいて、何食わぬ顔でランチを食べ始めた。

「…お疲れ様です」
「…あぁ、その手、どうした?」

藍原の問いかけに、素直に答える。

「仕事中にちょっと」

全ては答えなかった。光を悪者にはしたくなかったから。

「…藍原部長、どうしてこの席なんですか?他にも沢山空いてるのに」

そう言ったのは光。

藍原は相変わらず表情を変えることなく喋る。

「渡辺が困ってたから」

…私の表情一つで分かったのかこの人は。私は驚き顔で、藍原を見た。

すると、少しだけ笑った。

そんな私たちを見た光は、やっぱり気に入らない。

「…俺、藍原部長の事が嫌いです」

キッパリ言い放った。

「…別に構わない。仕事さえちゃんとやってくれればそれで」
「…仕事はちゃんとやりますよ」

売り言葉に買い言葉。静かに繰り広げられる喧嘩に、私は黙々と食べるしかできなくて。

「…早乙女、お前、渡辺に気があるのか?」
「…そうですけど何か?部長も、明日香ちゃんの事が好きなのは私のわかりますが、えこひいきしすぎですよ。くれぐれも他の社員からクレームが出ないように気を付けてくださいね」

…そろそろ我慢の限界が来た私は、スクッと立ち上がった。

「いい加減にしてください」

私は右手でお盆を持つと、さっさと行ってしまった為、光と藍原は困ったような顔をした。
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