抱き締めたら止まらない~上司の溺愛につきご注意下さい~
あーもー、本当に。この人の会社と家でのギャップと言ったらない!

私は両手で顔を覆って俯いた。

藍原はギョッとして、何事かと私の顔を覗きこむ。

「…渡辺?」
「…」

「どうした?気に障ることでも言ったか?」
「…逆」

「は?」
「真逆です」

「何が?」
「会社と家での藍原部長が真逆です」

私の答えに、藍原は困ったように笑って。

指の間から、目だけ覗かせれば、藍原は私のおでこを軽く小突いた。

「バカなことばっかり言ってないで、さっさと寝ろ」
「…部長」

「まだ、言い足りないのか?」
「いえ、そうじゃなくて」

「なんだ。何でも言えよ」
「今夜だけ、甘えても良いですか」

藍原は、その言葉にドキリとする。いや、藍原じゃなくても、そんなこと言われればドキッとするだろう。


「何?」
「傍に」

「…」
「傍にいて」

「渡辺?」
「私が眠るまで、話をしてくれませんか?」

その言葉に、藍原はどっと気が抜けた。

「どうしました?」
「いや、それくらいならしてやる」

「ありがとうございます。実は、思ってたより、手の痛みが酷くて、痛み止がまだ効かないんです。眠れなくて」

と、正直に答えれば、藍原は分かった分かったと言って、眠るまで、傍で話をしてくれた。
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