抱き締めたら止まらない~上司の溺愛につきご注意下さい~
「…」

無言の私。キッチンではリズミカルな包丁の音が、静かな部屋に響き渡る。

「…そんなに千切りキャベツ作ってどうするんだ、渡辺」

「…へ?…あ」

家に帰ってきてから、鳥の照り焼きを焼いて、千切りキャベツを添えようと思って始めただけなのに。

まな板の上には山盛りの千切りキャベツが出来上がっていた。

「何か嫌なことでもあったのか?一心不乱にやってたけど」

「嫌なこと?…」

藍原と、専務秘書の事を考えてたら、いつの間にかこんなことに。

「渡辺?」
「いえそんな事はありませんよ?千切りキャベツが沢山食べたかったんです」

「そうか」

にしては、ホントに凄い量だ。こんなに食べられるはずないのに。私は苦笑するしかなかった。

「あ、藍原部長、夕飯は?」
「食べても良いか?」

「もちろんです」

専務秘書と食事はしてこなかったのか。そう思ったら、何故か嬉しくなった。

「…なんだか嬉しそうだな」
「そうですか?んー…照り焼きが美味しいからかな?」

と、逆に問いかけてしまった。

すると、藍原はそんな私を見て、クスクスと笑った。

「何が可笑しいんですか?」
「いや、別に」

私がニコニコしているのが藍原は可愛くて、ずっと見ていたかった。
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