抱き締めたら止まらない~上司の溺愛につきご注意下さい~
仕事を済ませ、帰社したときには、社内ではねもはもない噂が広がっていた。

『藍原飛鳥と専務秘書の結婚』

という大きな噂。

どんなに耳を塞いでも、その噂が私の耳に入ってきた。

「明日香ちゃん」
「…何ですか?」

「顔色が悪いよ」
「大丈夫です」

「もう定時だし、送っていくよ」

そう言われたけど、もちろん断った。

だって、あのマンションは、藍原飛鳥の物だ。私の家ではない。居候していることがわかる。

そんなの、藍原に迷惑しかかけない。

確かに気分は悪かった。

マンションに戻った私は、食欲もなく、お風呂にだけ入り、早々に布団に入った。

…眠れない。

藍原の声だけでも聞けたらな。

こんなに藍原が恋しくなるなんて、どうしてしまったんだろう。

その時だった。

携帯の着信。相手は藍原。

「も、もしもし」
「早いな」

「え、あ、スマホ操作してたところだったんで」
「そうか」

あー。藍原の声だ。声を聞いただけで、ホッとする。

「良い子で留守番してるのか?」
「当たり前です。約束は守ります」

「…渡辺」
「何ですか?」

「会社で何かあったか?」
「どうしてですか?」

「声に元気がない」

…藍原は、私のちょっとした変化にも気づいてしまう。

「営業部は大変です」
「早乙女とは、上手くやってるのか?」

「早乙女さんとは、順風満帆です。流石は営業部のエース。感心することばかりです」

「…妬けるな」

「何いってるんですか…藍原部長だって、凄いですよ。怖いけど、尊敬してます」

「…渡辺は、いつになったら俺のこと」
「え?」

「いや、なんでもない。早く寝ろよ。遅刻するなよ」
「もう!子供じゃないんですから大丈夫ですよ」

「そうか」
「そうです」

「おやすみ」
「…部長」

「…何でもありません。おやすみなさい」

もう少し、声を聞いていたかった。でも、我慢した。
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