抱き締めたら止まらない~上司の溺愛につきご注意下さい~
その夜、藍原の声を聞いただけで、安心して眠れた。

でも、次の日から週末迄、藍原の声を聞くことは叶わなかった。

藍原は仕事で出張なのだ。自分から連絡なんてしちゃいけない。

今はとにかく、失敗しないように、仕事を頑張るだけだ。

…金曜日。明日と、明後日はお休みだ。

今日を乗りきったら、二日間はゆっくり休もう。

藍原の噂は、消えることはなく、私はどんどん元気をなくし、仕事を終えた光は、強引に、私を食事に連れ出した。

でも、食欲なんて湧かなくて。

それでも気丈に振る舞った。

何とか食事を終わらせ、駅についた。

今日の光はいつにもまして、強引だった。

自宅の最寄り駅まで、どうしても送りたいと、聞かず、そこまでならと送ってもらうことにした。

「ありがとうございました、早乙女さん」
「…明日香ちゃん、どうしてそんなに独りで抱え込むの?」

「…」
「この1週間、無理しすぎだよ」

「そんな事ありませんよ」
「俺にもっと頼ってよ。俺は明日香ちゃんの事を守りたい。好きだから」

「…私は」

「藍原部長は専務秘書と」
「聞きたくない!…言わないでください。私は藍原部長の事が」

閉じ込められた自分の思いが溢れ出す。それと同時に涙までもが溢れ出した。


「…早乙女の誘いは断るように言っておいただろ」

その声が聞こえたと同時に、誰かの腕の中に、閉じ込められた。


「…藍原部長」

光も、驚いている。

「好きな女を泣かすとか、論外だろ、早乙女」
「いや、俺は」


「泣かせたのは、藍原部長です」

私は鳴き声でそう言った。
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