抱き締めたら止まらない~上司の溺愛につきご注意下さい~
中に入ることを躊躇う私の手を、藍原はそっと握りしめた。

不安一杯の顔で、藍原を見上げた私の頭を優しく撫でた藍原。

「先に中に入るぞ」

その言葉に、小さく頷いた。

ドアを開け、中に入ろうとした藍原の手を無意識にぎゅっと握ってしまった。

「渡辺、お前は外で待ってろ」

付いていくと、目で訴えると、藍原はため息をついた。

「俺から離れるな」

私は何度も頷いて見せた。

そしていよいよ中へと入ることに。

…ドアを開け、先に藍原が入り、その後に続く。

…嫌な予感は的中してしまった。

部屋の中は荒らされていて、空き巣が入ったことは一目瞭然。

震える私の肩を抱いたまま、藍原は直ぐ様警察に電話。

全ての処理を藍原がしてくれた。

不幸中の幸いか。盗られたものは下着や少しの金品のみ。

処理を済ませた警察は帰り、部屋の中は、私と藍原の二人だけ。

「渡辺、大丈夫か?」
「…はい」

…返事とは裏腹に、全然大丈夫じゃない。

「渡辺」
「なんですか?」

座り込む私の手を取った藍原は自分の方に私を抱き寄せた。

「しばらくうちにいろ」
「部長、何を」

「ここに、独りで居るのは怖くて無理だろう?」

その通りなので、頷いた。

「うちはセキュリティも万全だし、俺もその方が安心だ」

「でも」

迷惑になるんじゃ。

「部下の安全を守るのは、上司の務めだから、そんな顔をするな。必要なものだけとりあえず鞄に積めろ」

促されるまま、私は必要最低限の物を鞄に積めると、再び藍原の車に乗り、藍原の住むマンションに向かった。

高級な高層マンション。万全なセキュリティ。

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