溺甘同棲~イジワル社長は過保護な愛を抑えられません~
守谷と喜和子に心配をかけてはならないため事務所で居残るわけにはいかず、一階のカフェでスマートフォン片手に窓辺に座る。
(倉田さん、なにを話すつもりなんだろう……)
片瀬のことだとしたら……と思うと、そのことを片瀬本人に聞いてみることも躊躇われる。
そうして倉田が優花を呼び出した理由をあれこれ想像しているうちに、約束の時間になった。
ちょうど六時を一分ほど過ぎたとき、優花のスマートフォンがテーブルの上で震え始める。画面にはさっきと同じナンバーが表示された。
ものの数秒で静かになったスマートフォン。優花が窓の外に目を向けてみれば、さっきはなかった白いコンパクトカーが歩道に横づけにされている。
倉田の車かどうか不確かなまま店の外に出ると、その車のパワーウィンドウが下がり、そこから「こちらです」と声がした。
それでもまだ確信がもてず、おずおずと近づいて窓の中を覗き見る。すると、そこでようやく倉田だとわかった。
「お乗りください」
「えっ」
「車に乗っていただけますか?」
倉田が、戸惑う優花にもう一度繰り返す。単調なのは電話同様。