溺甘同棲~イジワル社長は過保護な愛を抑えられません~
「でも、違います」
優花は思わず両手で拳を握った。
たとえ過去がそうだったとしても、あのときの片瀬の真摯な言葉が心にもないことだとは考えられない。
「本当にそうですか? 片瀬を信じられます? 十年ぶりに再会して、すぐに『好きだ』と囁く男を信用できますか?」
痛いところを突かれた。
確かに片瀬は、優花に一度は嘘を吐いている。再会したときには特別な感情はなかったと白状したのだから、そのときの言葉は全部嘘だ。
オーベルジュに泊まろうと誘ったのが優花だというのも。
「実際にはあなたにも、思い当たる節があるのではないですか?」
それまで前を向いていた倉田が、ゆっくりと首を回して優花を見る。冷ややかでいて、試すような眼差しだった。
思い当たることと倉田に言われてふと浮かんだのは、二週間前に気持ちを通じ合わせた日のこと。同窓会の会場を後にしたエレベーターで、部屋を探しているからと言った途端、片瀬は顔色を変えたことを思い出した。