溺甘同棲~イジワル社長は過保護な愛を抑えられません~

一時間ほど経った頃だろうか。玄関のドアが開く気配がして、優花はリビングで固唾を飲んだ。


「ごめん、優花。……って、どこへ行くつもり?」


リビングへ入ってきた片瀬は、キャリーバッグと大きな旅行カバンをそばに置いて佇む優花を見た途端、足を止める。優花と荷物を交互にまじまじと見つめた。


「片瀬くん、今日までここへ置いてくれてありがとう」
「……今日までって?」


片瀬が訝しげに眉をひそめる。


「今、会ってきた人と結婚の話があるんでしょう?」


緊張が走ったか、片瀬の頬がピクリと動いた。倉田の言っていたことが、作り話ではないことを物語っている。

別れを心に決めた優花だが、片瀬を信じたい気持ちもまだどこかに根強くあり、心が大きく揺れる。そんな話はないと答えてほしいと願う自分が、憐れでもあった。
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