溺甘同棲~イジワル社長は過保護な愛を抑えられません~
そうされてしまえば、足に自信のある人間でも追いつくことは不可能。
かといって、ここで諦めるわけにはいかない。片瀬は、優花を探してあてもなく歩道を走った。
公園の前を通れば、ひとり寂しくブランコにでも乗っていないかと足を踏み入れ、コーヒーショップがあれば覗いてみる。
ところが、そうしてみたところで優花の姿はどこにもない。試しにかけてみた電話は、電源が入っていなかった。
そのうちに片瀬の息はあがり、足も重くなる。どこをどう探しても、もはや優花には辿り着かない気がしてならなかった。
ふと目に入ったのは、片瀬がたまにふらっと立ち寄るバーだった。
今にもツタの葉が覆いつくしてしまいそうなほどに壁を這っているため、外観は隠れ家風。通りに面しているため客足が良いのか、店内はいつも混み合っている。
扉を開けて中に一歩入ると、カウンターからマスターの大吾(だいご)が「よう」と手を上げた。
今夜も賑わっている店内は、かろうじてカウンターに一席だけ空きがある。一番隅というのは、今の片瀬にもってこいの場所だ。
「なんて顔してるんだよ」