溺甘同棲~イジワル社長は過保護な愛を抑えられません~
ニヤニヤしながら片瀬に近づいてきた大吾は、同い年の大学時代の友人だ。
もみあげから顎まで繋がった髭に坊主頭という、いかにもワイルドな風貌をしている。
「マティーニ」
「おいおい、挨拶もなしに注文か?」
片瀬がひと言だけで済ませた注文に、大吾が難癖をつける。
片瀬は肩を上下させるほどのため息でそれに応じた。
「なにかあったのか?」
ここへ来るときの片瀬が無愛想なことはない。大学時代と変わらず軽いノリで、明るく来るのが常だった。
いかにも思い詰めたような表情が、大吾を珍しく心配させたのだろう。
「とにかくマティーニをくれ」
催促する片瀬に「なんなんだよ」と毒づきながらも、大吾はミキシンググラスにジンを注いだ。
カウンターを照らすためのペンダントライトがやけに明るく感じるのは、それだけ気持ちが落ちている証拠だろう。