溺甘同棲~イジワル社長は過保護な愛を抑えられません~
片瀬とのことを話したあの夜、亜衣は無責任に片瀬の擁護をするわけでも非難するわけでもなく、下手に優花を慰めるわけでもなく、ただ黙って話を聞いてくれた。
そうして事実関係だけを話した優花は、誰にも話せずにいたことをすべて吐き出したおかげか、不思議と気持ちが落ち着いた。
亜衣は、『気が済むまでうちにいいからね』と言ってくれている。もちろん、その好意にいつまでも甘えるつもりは、優花にないけれど。
それ以降、優花はもちろん、亜衣もいっさい彼の名前を口に出していない。ふたりの間では自然と禁句になっていた。
優花がちょうど食べ終えたときだった。スマートフォンが着信を知らせて鳴り響く。
起き抜けにバッグに入れたそれを取り出してみれば、母親からの電話だった。
画面をスライドさせて耳にあてると同時に『優花?』と声が聞こえる。
「おはよう。こんなに早くどうしたの?」
『今週末、なにか予定は入ってる?』
いきなり聞かれたが、優花に特別な用事はなにもない。
もともとスケジュール帳すら必要としていない人種だ。