溺甘同棲~イジワル社長は過保護な愛を抑えられません~

(実家に帰っても就職先はないし、まだ二十八歳。結婚はもう少し先でもいいよね。よし、がんばって仕事を見つけよう)

決意も新たに、通勤ラッシュとは違う穏やかな光景の電車を乗り継ぎ、優花はアパートの最寄り駅まで帰ってきた。

決算時期などの繁忙期には休日出勤もしてきたため、せかせかしない午後のゆったりとした時間にはまだ慣れない。優花はなんとなく自分が場違いな感じがして、用事があるわけでもないのについ足を速めた。

ロータリーを抜けて歩道を足早に歩いていると、不動産屋の看板にふと目が留まる。大きな窓ガラスには、アパートやマンションの間取りと家賃の書かれた案内が貼られていた。

実は優花が今住んでいるアパートは、解雇された会計事務所が借り上げていたもの。一万円という破格の家賃で住めたが、そろそろ出て行かなければならない。
ところが就職先同様に引っ越し先もまだ見つけられず、なんとか四月末までの入居をお願いしていた。

(いい加減、こっちも本気で探さないとな……。あとでネット検索もしてみよう)

再び足を進めようとしたその先の路肩で、黒い高級セダンが止められる。
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