溺甘同棲~イジワル社長は過保護な愛を抑えられません~
聞こえたには聞こえたが、優花の耳に届いたものが合っているかと言ったら自信がない。なにしろそれが信じがたいことだったから。
顔を覗き込まれるようにされた優花は、思わず半歩下がった。その拍子に、壁が背中にあたる。
「好きだったんだ、キミのことが」
優花がじっと見つめた片瀬の唇が、〝好きだった〟とはっきり動いた。
ただ、そう言われても優花には全然ピンとこない。
高校時代、校内では女子生徒が片瀬に告白する現場を何度も見かけた。バレンタインデーには、大きな紙袋に三つも四つもチョコレートをもらっていたのを知っている。
特定の彼女がいたのは一年生のときのほんの数ヶ月間だけだが、とにかくダントツの人気を誇る男子生徒だったのだ。
そんな片瀬から好きだったと言われても、冗談にしか聞こえない。
優花が、片瀬に劣らず人気者の女子だったのならともかく、影は薄く存在感もほとんどなかったのだから。
「……冗談、だよね?」