溺甘同棲~イジワル社長は過保護な愛を抑えられません~

一年生のときに一度だけいた片瀬の彼女は、ちょっとした嫌がらせを度々受けていた。
クラスメイトとあまり関わりをもたなかった優花だが、そんな話が女子たちから漏れ聞こえたことがあったのだ。


「俺だっていい大人の男だから、この十年間、ずっと宮岡さんのことを想っていたわけじゃないよ?
でもこの前、確信した。今度こそ自分の気持ちをぶつけろってことだってね。街で宮岡さんを見かけて、運命的なものを感じたって言ったら笑う?」


予想もしていなかった片瀬の独白が、優花から言葉を奪った。
呼吸も瞬きも忘れて、片瀬を見上げる。もはや、なにも考えられない。思考回路は完全に機能を停止していた。


「優花」


不意打ちで下の名前で呼ばれた。抑揚をつけた優しい呼び方だ。
目を見開き、大きく弾んだ鼓動が優花の肩を上下させる。片瀬から注がれる眼差しが熱くて、胸が焼けつきそうだった。
片瀬の顔がゆっくりと近づくのに、身動きひとつできない。指先すら動かなかった。
そっと唇が重なり、ものの数秒で離れる。まるで春風が通り過ぎたような優しいキスだった。
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