溺甘同棲~イジワル社長は過保護な愛を抑えられません~
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片瀬が代表を務めるトライリンクは、港区のオフィスビル内にある。
地上四十五階のそのビルはワンフロアが八百坪あり、社員を五百人抱える大所帯のトライリンクでも三フロアで事足りるほど広い。
三十五階にある社長室では、秘書の倉田恭平(くらた きょうへい)が今日の予定を片瀬に確認しているところだ。
倉田は、片瀬よりひとつ年下の二十七歳。トライリンクに入社して五年になる。
「昼間はこれといって予定は入っておりませんが、夜、会食のお誘いがございます」
スケジュール帳を長い指で素早くめくりながら、倉田が淡々と話す。
「会食? お相手は?」
「『AGキャスト』の長谷部(はせべ)社長です」
マウスやキーボードに関しては、業界シェアトップクラス。先月から取引を開始した会社だ。
「悪いけど、今夜は都合が悪いんだ」
片瀬の言葉に、倉田はスケジュール帳から顔を上げた。細い一重瞼をさらに細める。