溺甘同棲~イジワル社長は過保護な愛を抑えられません~
「からかわないで、片瀬くん」
「からかってなんかないよ。とにかく俺についてくればいいから」
車に乗り込んでしまった以上、逃げる術はない。優花は黙って身を任せるしかなかった。
約一時間後、車が止められたのは、葉山の海沿いにある真っ白な建物の駐車場だった。
看板には【花いかだ】とある。懐石料理の店らしい。
昼間であれば真っ青な海や空とのコントラストが美しかったに違いない。
片瀬は乗るときにしてくれたように、助手席のドアを開けて優花を下ろしてくれた。
さりげなく握られた手を振りほどくこともできないまま、店のドアをくぐる。
すぐに出迎えてくれたのは、薄紫の着物を着た依子(よりこ)という上品な女性だった。美しくセットされた髪にはさくらんぼのかんざしが飾られ、動くたびに揺れるさまがかわいらしい。
「片瀬様、お待ちしておりました」
気品に満ち溢れた様子でゆっくりとお辞儀をし、片瀬と優花に微笑みかける。
顔と名前を知られているくらいだから、片瀬がよく使う店なのだろう。