溺甘同棲~イジワル社長は過保護な愛を抑えられません~

新たなクライアントが片瀬の会社だとは想像もしていなかった。

片瀬も、ひと言そう言っておいてくれればいいのに。
心の中でそう思ったが、ここ最近、片瀬と話す機会はほとんどなかった。

守谷と挨拶を交わし、名刺交換をする様子を呆然としつつ見守る。一度だけ片瀬と目が合ったが、彼はなにかを言うわけでもなく、ごく自然に外された。


「遠くまで足を運んでいただき、ありがとうございました」
「いえいえ、もったいないお話をいただきまして、こちらこそありがとうございます。うちの宮岡とは高校時代のご友人だそうで」
「ええ、そうなんです。ね?」


片瀬から目線を投げかけられ、優花は面食らいながら「は、はい」と答えた。久しぶりに片瀬から話しかけられた気がする。


「これまでお願いしていた会計事務所が事業を畳むことになりまして、どこかほかのところをと探していたのですが、宮岡さんが守谷さんのところにお勤めになっていることを思い出しまして」
「そうですかそうですか」


守谷が何度となく頷く。
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