溺甘同棲~イジワル社長は過保護な愛を抑えられません~
片瀬が優花に目を向けたのは、最初の挨拶のときだけ。それ以降は真剣な様子で守谷と向き合う。
仕事に対して真摯に取り組むのは社長として当然のことだが、優花がまるでここにいないかのような空気感には、ちょっとした寂しさを覚えた。
そうして一時間ほど続いた打ち合わせを終え、優花たちはこの後出かけるという片瀬と倉田のふたりと一緒にビルの外へ出た。
社長専用の社用車なのか、黒塗りの車が目の前につけられる。その車は、片瀬と再会したときに見かけたものと同じもののようだ。
運転手と思しき年配の男性が運転席から降り立ち、ピンと伸びた背筋のまま頭を下げて待つ。
「今日は、足をお運びくださいましてありがとうございました。早速、有益な情報をいただき嬉しく思います」
「いえいえ、トライリンクさんのお力になれるよう精一杯やってまいりますので。どうぞよろしくお願いします」
守谷と一緒に挨拶を終え、駅に向かって足を向けたときだった。「圭人さん!」と片瀬の名前を呼ぶ女性の声に、優花がつられて顔を向ける。
すると、ひとりの女性がヒールの音を響かせながら歩いてくるのが見えた。