溺甘同棲~イジワル社長は過保護な愛を抑えられません~
「け、圭人さん?」
戸惑ったような声をあげる彼女を社用車の後部座席に押し込め、片瀬自身もそこに乗り込む。倉田は表情も変えずに、「では、失礼いたします」と優花たちに挨拶をしてから助手席のドアを開けて乗った。
取り残されたような感覚の中、守谷とふたり立ち尽くす。社用車のテールランプが見えなくなったところで、ようやく守谷が「さてと、私たちも行きましょうかね」と声をかけてくれた。
「いやしかし、すごい立派な会社でしたねぇ」
「そうですね」
「あんな大きな会社を相手にするとなると、がぜん腕が鳴りますよ。これも宮岡さんが働いてくれるようになったおかげですね」
守谷が明るく話してくれるおかげで、心が救われる思いだ。
片瀬に女性関係のことをとやかく言う権利は優花にないが、さっきの光景に胸が痛んだのは事実だった。
(私、片瀬くんのこと、本気で好きになっちゃったのかな……)
ほかの女性と親しげにするのを見て嫌な気持ちになったのは、まさしくその裏づけだろう。
そう気づいたところで、成就することのない恋の悲しい末路を思い知るだけだった。