溺甘同棲~イジワル社長は過保護な愛を抑えられません~

「け、圭人さん?」


戸惑ったような声をあげる彼女を社用車の後部座席に押し込め、片瀬自身もそこに乗り込む。倉田は表情も変えずに、「では、失礼いたします」と優花たちに挨拶をしてから助手席のドアを開けて乗った。

取り残されたような感覚の中、守谷とふたり立ち尽くす。社用車のテールランプが見えなくなったところで、ようやく守谷が「さてと、私たちも行きましょうかね」と声をかけてくれた。


「いやしかし、すごい立派な会社でしたねぇ」
「そうですね」
「あんな大きな会社を相手にするとなると、がぜん腕が鳴りますよ。これも宮岡さんが働いてくれるようになったおかげですね」


守谷が明るく話してくれるおかげで、心が救われる思いだ。

片瀬に女性関係のことをとやかく言う権利は優花にないが、さっきの光景に胸が痛んだのは事実だった。

(私、片瀬くんのこと、本気で好きになっちゃったのかな……)

ほかの女性と親しげにするのを見て嫌な気持ちになったのは、まさしくその裏づけだろう。
そう気づいたところで、成就することのない恋の悲しい末路を思い知るだけだった。
< 78 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop