溺甘同棲~イジワル社長は過保護な愛を抑えられません~
スマートフォンも財布も、なにもかも持っていない。優花は完全なる手ぶらだ。
「片瀬くん、私、財布もなにも持ってないよ」
「心配いらない」
優花が必死に訴えるが、片瀬は余裕の笑みだ。
なにがどう心配いらないというのか。洋服の準備をするのに財布がなくてどうするつもりか。
車に乗せられること十分。片瀬が優花を降ろしたのは、ルネサンス様式のようなレトロな雰囲気のある洋館の前だった。
セレクトショップなのか、大きな窓からディスプレイされた洋服が見える。
優花ひとりでは尻込みして入ることのできないような高級感が漂い、中に入ってみれば陳列された洋服はエレガントで華やかな印象だった。
入口から数歩入ったところで圧倒されてしまい、優花は立ち止まった。カットソーにワイドパンツという普段着の自分が恥ずかしくなる。
「片瀬様、いらっしゃいませ」
片瀬に気づいた女性スタッフがすぐに近づいてくる。立ち居振る舞いも所作も、この店に相応しい女性だ。
スタッフに名前を呼ばれるということは、片瀬はよくここに来ているのだろうか。