Crazy for you ~引きこもり姫と肉食シェフ~
店内の様子は、カジュアルと言うだけあって、それほどかしこまった雰囲気ではなかった。フレンチと言うより、ハワイアンかアジアンレストランのようだった。
「え……あ、服……!」
とは言え、いつものよれよれ気味のTシャツにジーンズとはいかないだろう。慌ててクローゼットを開けた。
莉子は食べ物だけでなく、服にすら興味はない。概ね通販でサイズが合うから買っておくか、と言う程度である。
(うわー、高校の時に買った服なんか、着ていけないよねえ?)
一応鏡に向かって、体の前にかざしてみた。フリルが多めのカットソーはどう見ても25歳の莉子から浮いていた。
次に手に取ったシフォンのブラウスが付いたキャミソールにも溜息が出る。
(……これ着たのも、一度か二度だったような気が……)
香子と買い物に行って、ついでに買ったものだった。
「──いい機会だ、少し整理しよ」
莉子は一枚一枚取り出して、確認しながら処分と、今日着ていく服を考える。
*
石川町駅からなら徒歩五分ほど。
元町のメインストリートの裏道の入って間もなくに、その店はあった。
『見逃さないで』
そう言っていたのがよく判った。
一階は和食のお店が入っていて、ただ歩いていれば和風の店構えしか目に入らない。二階にあるLe Bonheurは全く主張していないのだ。
小さな小さな木製の看板が、スチール製の階段にかかっているだけだ、その店が目的でなければ訪れる事はないだろう。
花柄のチュニックに白のチノパンを合わせた。二十代も半ばになったのだ、少し落ち着いた服を買い直そうと思った。慣れないパンプスも足が痛い、踵を鳴らして外階段を上がると、ウェイターがドアを開けて出迎えてくれた。
「ようこそ、Le Bonheur(レ・ボナー)へ」
黒く長いギャルソンエプロンと黒のカマーベストを着た、これまた美形なウェイターは笑顔で中へいざなう。
「あ、はい、あの、予約してるはず、なんですけど……」
言って思う、藤堂は莉子の名で予約したのか、あるいは藤堂自身の名前なのか?
「ご予約の……はい、伺っております」
特に名前を言わなくても、こちらへ、と案内された。並んだテーブルを抜けた店の奥、壁で仕切られた半個室になった場所だった、予約の札がテーブルにあったのを店員は持って行った、莉子はちらりと確認したが、莉子から見えるフロアのテーブルには他にその札はない。
四人掛けのテーブルの一番手前に座った、結局誰を誘っていいかも判らず、一人でやってきたが、やはり居心地は悪い。
フロアには既に二組の客がいた、二人組と三人組の、ママ友とか言われる関係だろうか? 莉子より少し年上と見える女性客達だった。
「え……あ、服……!」
とは言え、いつものよれよれ気味のTシャツにジーンズとはいかないだろう。慌ててクローゼットを開けた。
莉子は食べ物だけでなく、服にすら興味はない。概ね通販でサイズが合うから買っておくか、と言う程度である。
(うわー、高校の時に買った服なんか、着ていけないよねえ?)
一応鏡に向かって、体の前にかざしてみた。フリルが多めのカットソーはどう見ても25歳の莉子から浮いていた。
次に手に取ったシフォンのブラウスが付いたキャミソールにも溜息が出る。
(……これ着たのも、一度か二度だったような気が……)
香子と買い物に行って、ついでに買ったものだった。
「──いい機会だ、少し整理しよ」
莉子は一枚一枚取り出して、確認しながら処分と、今日着ていく服を考える。
*
石川町駅からなら徒歩五分ほど。
元町のメインストリートの裏道の入って間もなくに、その店はあった。
『見逃さないで』
そう言っていたのがよく判った。
一階は和食のお店が入っていて、ただ歩いていれば和風の店構えしか目に入らない。二階にあるLe Bonheurは全く主張していないのだ。
小さな小さな木製の看板が、スチール製の階段にかかっているだけだ、その店が目的でなければ訪れる事はないだろう。
花柄のチュニックに白のチノパンを合わせた。二十代も半ばになったのだ、少し落ち着いた服を買い直そうと思った。慣れないパンプスも足が痛い、踵を鳴らして外階段を上がると、ウェイターがドアを開けて出迎えてくれた。
「ようこそ、Le Bonheur(レ・ボナー)へ」
黒く長いギャルソンエプロンと黒のカマーベストを着た、これまた美形なウェイターは笑顔で中へいざなう。
「あ、はい、あの、予約してるはず、なんですけど……」
言って思う、藤堂は莉子の名で予約したのか、あるいは藤堂自身の名前なのか?
「ご予約の……はい、伺っております」
特に名前を言わなくても、こちらへ、と案内された。並んだテーブルを抜けた店の奥、壁で仕切られた半個室になった場所だった、予約の札がテーブルにあったのを店員は持って行った、莉子はちらりと確認したが、莉子から見えるフロアのテーブルには他にその札はない。
四人掛けのテーブルの一番手前に座った、結局誰を誘っていいかも判らず、一人でやってきたが、やはり居心地は悪い。
フロアには既に二組の客がいた、二人組と三人組の、ママ友とか言われる関係だろうか? 莉子より少し年上と見える女性客達だった。