Crazy for you ~引きこもり姫と肉食シェフ~
先程とは違うウェイターが水とおしぼりを運んできた。
「まもなく藤堂が参ります、少しお待ちを」
優しい声で言って、会釈をして個室から出て行った。
(く、来るのか……藤堂さん……)
水を一口飲むと、もう止まらなかった。
三杯目の水のお代わりをお願いすると、半個室の外で「きゃあ」と小さな悲鳴が聞こえた。
なんだろう、と思っている間に、個室とフロアを区切る壁に開いた入口に藤堂がひょこっと姿を見せた。
白いコック着姿が凛々しかった、大きな四角いプレートを片手で持っていた。
「いらっしゃい、よく来たね」
笑顔で言って個室に入って来た、壁の向こうがざわついているのが判る、客が増えたのだろうか。
「はい、あの、これ……」
莉子はテーブルの上に置いておいた藤堂のスマホを押しやる。
「ああ、ありがとう。じゃあこれをどうぞ」
莉子の目の前に皿を置いた。メインディッシュはチキンソテーで、付け合わせのサラダは色とりどりで華やかだった。前菜となるであろう小さな蕪に挽肉を詰めスープで茹でたものと芽キャベツのマリネが並んでいる。サフランライスがこんもりと丸く盛られ、その脇には小さな器のプリンもあった。
莉子はお腹を押さえそうになった、ぐぅ、と音を立ててしまいそうだったからだ。
「どうぞ」
笑顔の声に莉子ははっと顔を上げた、微笑む藤堂を真正面で見てしまい、急に恥ずかしくなる。
「……いただきます」
俯き、小さく手を合わせて、並んでいたフォークとナイフを手に取った。
藤堂は、莉子の向かいの席に座った。
「え、あの……お仕事は……」
「まあ仕込みも終わってるし、まだそんなに忙しくないから。一人飯も淋しいじゃない」
言いながらスマホを引き寄せ、頬杖をする。
「え……はい……」
いつも一人だ、気にならない、とは言えなかった。
「今日は一人で来たんだね」
言われて、莉子の顔に朱が上る。
「……実は友達はいなくて……姉は、忙しいから……」
「ごきょうだいが?」
「はい、あの……双子なんです、全然似ていないんですけど……」
中身は、と言う言葉は飲み込んだ。
(……え……本当に、藤堂さんに見られながら食べるの……?)
皿の左上にある蕪を半分に切り分け、ゆっくり口に運んだ。
蕪の甘みと、豚の脂身の香りが口内に広がる、微かにかつおの香りもした。
「……和風、なんですか?」
「うん、ものによってはね。やはり日本人には日本人の馴染みのある味の方が美味しいって感じるみたいだから」
莉子は頷いて、残りの蕪を頬張った。
「おいしい?」
聞かれて、恥ずかしさが込み上げる。口元が緩んでいるのが自覚できたからだ。
「……はい……」
「まもなく藤堂が参ります、少しお待ちを」
優しい声で言って、会釈をして個室から出て行った。
(く、来るのか……藤堂さん……)
水を一口飲むと、もう止まらなかった。
三杯目の水のお代わりをお願いすると、半個室の外で「きゃあ」と小さな悲鳴が聞こえた。
なんだろう、と思っている間に、個室とフロアを区切る壁に開いた入口に藤堂がひょこっと姿を見せた。
白いコック着姿が凛々しかった、大きな四角いプレートを片手で持っていた。
「いらっしゃい、よく来たね」
笑顔で言って個室に入って来た、壁の向こうがざわついているのが判る、客が増えたのだろうか。
「はい、あの、これ……」
莉子はテーブルの上に置いておいた藤堂のスマホを押しやる。
「ああ、ありがとう。じゃあこれをどうぞ」
莉子の目の前に皿を置いた。メインディッシュはチキンソテーで、付け合わせのサラダは色とりどりで華やかだった。前菜となるであろう小さな蕪に挽肉を詰めスープで茹でたものと芽キャベツのマリネが並んでいる。サフランライスがこんもりと丸く盛られ、その脇には小さな器のプリンもあった。
莉子はお腹を押さえそうになった、ぐぅ、と音を立ててしまいそうだったからだ。
「どうぞ」
笑顔の声に莉子ははっと顔を上げた、微笑む藤堂を真正面で見てしまい、急に恥ずかしくなる。
「……いただきます」
俯き、小さく手を合わせて、並んでいたフォークとナイフを手に取った。
藤堂は、莉子の向かいの席に座った。
「え、あの……お仕事は……」
「まあ仕込みも終わってるし、まだそんなに忙しくないから。一人飯も淋しいじゃない」
言いながらスマホを引き寄せ、頬杖をする。
「え……はい……」
いつも一人だ、気にならない、とは言えなかった。
「今日は一人で来たんだね」
言われて、莉子の顔に朱が上る。
「……実は友達はいなくて……姉は、忙しいから……」
「ごきょうだいが?」
「はい、あの……双子なんです、全然似ていないんですけど……」
中身は、と言う言葉は飲み込んだ。
(……え……本当に、藤堂さんに見られながら食べるの……?)
皿の左上にある蕪を半分に切り分け、ゆっくり口に運んだ。
蕪の甘みと、豚の脂身の香りが口内に広がる、微かにかつおの香りもした。
「……和風、なんですか?」
「うん、ものによってはね。やはり日本人には日本人の馴染みのある味の方が美味しいって感じるみたいだから」
莉子は頷いて、残りの蕪を頬張った。
「おいしい?」
聞かれて、恥ずかしさが込み上げる。口元が緩んでいるのが自覚できたからだ。
「……はい……」