Crazy for you  ~引きこもり姫と肉食シェフ~
***


弟の分の朝食の支度を終えて、尊は出勤用の鞄を手にした。 その時ドアが開いた、莉子の部屋ならばパソコン部屋になっている場所だった。

「ふわ……おはよ……」

尊の弟、大学一年生の拓弥が欠伸をし、パジャマの上衣の裾から手を突っ込んでお腹を掻きながら挨拶する。

「おはよう、って、お前また午前様だったな? あんまり生活が乱れてると、寮にでもぶちこむぞ」

自分の元で預かっている以上、今は保護者の代わりだと思っている尊は厳しく言うが、自身も店の経営をしている為、そう弟に監視の目を光らしている訳にもいなかった。

「へーい、気を付けまーす」

明るく言われては「そうか」と答えてしまう。 兄弟が欲しいと思って随分してから、母にお兄ちゃんになるのよと言われた時は本当に嬉しかったのを思い出す。しかも生まれたのは弟で、弟もとても素直に育ったのか、金魚の糞のようにどこにでも兄について回り、子分のようになんでも兄の言う事聞いた。可愛さひとしおだった。

「今日はバイトは無かったよな。弁当は作っといたから」

なのでつい甘やかしてはしまう、家事は折半だぞと言っておきながら、結局自分がやってしまっている。食事も手が空いた者が、と言う約束だったが、大学生もなかなか時間は不規則だ、規則正しい尊がやる方が確実で、自分がいない時間の事まで気にしてしまい弁当までつくっていた。弁当を作ってやってもそれが昼ごはんの時もあれば、夕ご飯になる時もある。

「んー、さんきゅ」

そのバイトも、目が行き届くからと自分の店を勧めたが、さすがに嫌がられた。横浜駅のある本屋で働いている。

「でも、飯くらい、店に来ればいいのに」
「嫌だよっ」

それまでの眠気を吹き飛ばして、拓弥は声を上げた。

「ゆっくり飯も食えねえもん! そんなとこに俺行きたくない!」
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