Crazy for you ~引きこもり姫と肉食シェフ~
「ああ、俺はこの部屋は分譲前には契約してね。まだ公開前のを紹介してもらったんだ」
尊は先にキッチンに入りながら説明を始めた。
「家で料理したいからってちょっとわがまま言ったんだ。シンクとかメーカー指定してさ。最初はすんげー嫌な顔されたけど、一括で払うんだからってごり押しした」
「そうなんですか……」
そんなわがままを言えることを初めて知った。 確かに、尊の身長合わせてだろうか、随分高さのある調理台だと判る。
「じゃあ、うちのキッチンなんて使い辛いんじゃ……」
初めて使うキッチンは、慣れるまでが大変だ。ろくに料理などしない莉子だって、そう感じるのだ。
「まあそうなんだけど。俺、修行時代に、一般家庭に出張してご飯作るなんてしてたから、まあ、その辺は慣れで」
「わあ……すごい」
莉子には未知の世界だ。その日呼ばれた家にお邪魔するなど、自分には無理だと思った。
四つ口のコンロのひとつでは、野菜がてんこ盛りのスープがいい香りの湯気を上げていた。作業台にはカレイのムニエルが、衣をまとってバッドに並んでいる。
「さて、じゃあ花村さんにはドレッシングを作ってもらおうかな」
エプロンをつけていた莉子に、尊が指示を出す。
「ドレッシングから作るんだ……」
「レタスとベビーリーフのサラダだから、ドレッシングにはこだわろう」
ボウルと泡立て器を出しながら言う尊に、莉子は微笑んでいた。
*
十二時を幾分過ぎた頃、莉子が尊の指示通りにムニエルに火を通していると、玄関が開く気配があった。
「あれ? 拓弥、帰ってきたかな」
尊が呟いた。
(──弟さんが来るの!?)
二人きりの方が緊張するであろうに、人が増えると聞いて莉子の手が震えた。 動揺を隠しきる前に、ひょこっと少年が姿を見せる。
「ラッキ! グッドタイミング!」
「お前な、きちんと予定を言え」
「あ、俺の所為じゃないぞ、急に午後休講になったんだ、教授が体調不良とかでさ。みんなとぶらつこうかって言ってたんだけど、兄ちゃん休みのはずだから家にいんべと思って帰って来たけど」
尊は先にキッチンに入りながら説明を始めた。
「家で料理したいからってちょっとわがまま言ったんだ。シンクとかメーカー指定してさ。最初はすんげー嫌な顔されたけど、一括で払うんだからってごり押しした」
「そうなんですか……」
そんなわがままを言えることを初めて知った。 確かに、尊の身長合わせてだろうか、随分高さのある調理台だと判る。
「じゃあ、うちのキッチンなんて使い辛いんじゃ……」
初めて使うキッチンは、慣れるまでが大変だ。ろくに料理などしない莉子だって、そう感じるのだ。
「まあそうなんだけど。俺、修行時代に、一般家庭に出張してご飯作るなんてしてたから、まあ、その辺は慣れで」
「わあ……すごい」
莉子には未知の世界だ。その日呼ばれた家にお邪魔するなど、自分には無理だと思った。
四つ口のコンロのひとつでは、野菜がてんこ盛りのスープがいい香りの湯気を上げていた。作業台にはカレイのムニエルが、衣をまとってバッドに並んでいる。
「さて、じゃあ花村さんにはドレッシングを作ってもらおうかな」
エプロンをつけていた莉子に、尊が指示を出す。
「ドレッシングから作るんだ……」
「レタスとベビーリーフのサラダだから、ドレッシングにはこだわろう」
ボウルと泡立て器を出しながら言う尊に、莉子は微笑んでいた。
*
十二時を幾分過ぎた頃、莉子が尊の指示通りにムニエルに火を通していると、玄関が開く気配があった。
「あれ? 拓弥、帰ってきたかな」
尊が呟いた。
(──弟さんが来るの!?)
二人きりの方が緊張するであろうに、人が増えると聞いて莉子の手が震えた。 動揺を隠しきる前に、ひょこっと少年が姿を見せる。
「ラッキ! グッドタイミング!」
「お前な、きちんと予定を言え」
「あ、俺の所為じゃないぞ、急に午後休講になったんだ、教授が体調不良とかでさ。みんなとぶらつこうかって言ってたんだけど、兄ちゃん休みのはずだから家にいんべと思って帰って来たけど」